公園に住むおじちゃん

 うちの近所の小さな小さな公園に、もう何年も前から住んでるおじちゃんがいる。

公園の隅の梅の木の影に脚立のようなものを置いて、そこにおじちゃんのわずかな私物が綺麗に並べられていて、その横にパイプ椅子を置いていつもそこに座ってウトウトしている。

 

俗に言う、ホームレス。

 

公園で子供を遊ばせる親たちは眉をひそめて嫌がっているようだが、私はおじちゃんがいつも公園の雑草を抜いたり、子供たちが散らかして行ったお菓子のゴミや枯葉を掃除したり、子供たちが怪我をしないように小石を拾ったりしているのを知っている。

 

もうかれこれ7年くらいかな、時々おじちゃんにお菓子や果物やおにぎりを差し入れしたり、クリスマスに毛糸の帽子やヒートテックなどをプレゼントしたり。

その時に少しおしゃべりしたりもするけど、とても礼儀正しくて、髪やヒゲも小綺麗にしている。

 

大雪の後に「おじちゃん、こんな寒い雪の中どうやって過ごしてたの?」と聞くと

「寒い時はね、ずーっと公衆トイレの中で立ってるんですよ。何時間も何日も。

寝ちゃうとダメだからね。」

なるほど、テレビなんかで見たことがある雪山で遭難して「寝るんじゃない!寝たら死ぬぞー!」って言ってるあれは本当なんだ。

おじちゃんは新潟出身だから、寒さに強いと同時に寒さを甘くみていないという事がわかった。

 

随分前に私が息子の幼稚園の運動会で、保護者参加種目のリレーを走る事になった時のこと。

本番に向けて毎朝、主人や子供が起きてくる前に一人で朝練をしていた。

ちょっと張り切りすぎて、あろうことか本番の三日前くらいに左足を痛めてしまい、びっこを引きながら公園のおじちゃんに差し入れを持って行って、運動会があるのに足を痛めて走れなくなってしまったと話すと、

「いやー、ちょっと走りこみ過ぎてるなと思ってたんだよ。

本番まではもう軽くストレッチだけして、お風呂でしっかり揉みほぐして湿布して、できれば前日に針を打つといいよ」などと、筋肉や筋の事を色々と説明してくれた。

「詳しいですね」と言うと、恥ずかしそうに「昔、陸上の選手だったんですよ」と。

 

 驚いた。

夢に向かって走っていた日々があったんだ・・・。

どこで、どう折れてしまったんだろう?

人生はわからないものだ。

 

そんなある日、子供と一緒に久しぶりに差し入れを持って公園に行ったら、おじちゃんがいない。

おじちゃんの家具調脚立もパイプ椅子も無い。

おまけにおじちゃんがいたところには木で柵を作っていて入れないようになっている。

 

呆然。

柵を見つめたまましばらく動けなかった。

追い出された?

まさか、亡くなった?

いろんな想像をしてしまって、めちゃくちゃ落ち込んだ。

 

その後の近所での聞き込み捜査によって、亡くなったのではなく追い出されたという事がわかった。

何年も黙認されて、住み慣れた公園を出てどこに行ったんだろうか。

でも、とりあえずどこかで生きている事がわかってよかった。

 

おじちゃんがいなくなって、何ヶ月も過ぎて、雑草がボーボーになった梅の木のあたりを見てはなんとなく寂しかった。

 

そして最近、息子の小学校では長縄跳びの大会に力を入れているようで、運動神経ゼロの息子はうまく飛べなくて肩身の狭い思いをしているという。

さっそく大会に向けて朝の秘密特訓をするべく、二人で縄を持って近所の公園ではなく、少し離れた大きな公園に行った。

 

なんと、早朝の公園で

おじちゃんと再会!

「心配しとったんよー!」と子供と一緒に駆け寄ると、

「今はここにいるんです」と嬉しそうに笑ってくれた。

 

この、人の多い公園では前の公園のように家具調脚立や椅子を置く事は出来ないので袋に必要最小限の荷物を持ち歩いて暮らしているとの事。

 

あー、よかった。

本当によかった。

 

そして、さっそく長縄の練習に駆り出されるおじちゃんでした。笑

 

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長文、読んでくれてありがとうございました。